2021/08/25
副作用や服薬アドヒアランスなどの観点から、近年、ポリファーマシーが問題視されています。一般的には、西洋薬による多剤併用がイメージされますが、漢方薬が問題となっているケースも最近は散見されています。
漢方薬には、1剤に複数の生薬が含有されています。そのため、漢方薬が複数処方されると、処方によっては一部生薬が重複し、過量投与から副作用を引き起こすリスクが高まる恐れがあります。例えば、漢方薬の約7割に含有されていると言われる甘草では、偽アルドステロン症の副作用が知られています。また、黄芩(オウゴン)では間質性肺炎や肝障害、山梔子(サンシシ)では腸間膜静脈硬化症などの副作用が生じるリスクがあります。特に甘草や山梔子の副作用は用量依存的に発症することが知られており、重複処方に対する注意が必要です。
本来、漢方治療では、体質や現在の状態、他覚的所見を総合的に考慮して「証」を決定し、証に基づき複数の症状をなるべく網羅するよう1つまたは2つの漢方薬を選択するのが基本です。ところが、西洋薬のように病名や症状に対して「1対1対応」で漢方薬を処方していくと、結果的に疾患や患者さんの訴えに応じて漢方薬が複数処方されてしまうわけです。
近年、漢方治療の分野でも西洋医学的なEBM(Evidence-based Medicine 科学的根拠に基づいた医療)が重要視されるようになりました。漢方薬に関するエビデンスも集積しており、様々なガイドラインにも漢方薬の有用性などが記載されています。その結果、「術後の腸管麻痺性イレウスの予防に大建中湯」「胃腸障害に六君子湯」といったように、西洋薬を処方する感覚で、医師が病名から漢方薬を“気軽”に処方するようになりました。しかし、術後の腸管麻痺性イレウスの予防に大建中湯を処方しても、イレウスを起こしてしまう患者がいます。そういう患者さんを診察すると、熱っぽい感じが見られることがあります。大建中湯は本来、冷えに伴う腹痛や膨満感を温めて治す漢方薬であり、別の病態に使用していたわけです。このような患者さんの場合は、大建中湯でなく熱を冷ます桃核承気湯が適していたりするわけです。このように証を無視してEBMだけに基づいた“縦割り処方”が増えたことが、漢方薬のポリファーマシーの一因となっているものと私はみています。
さらに患者さんによっては、様々な診療科やクリニックに通院し、それぞれから漢方薬が処方されているにもかかわらず、他院の処方について伝えていない場合があり、それも重複処方が起こる要因の1つです。また、近年はドラックストアだけでなく、ネットショッピングや通信販売で気軽に漢方薬を購入することが可能になっています。
このように、医療機関や薬局等の複数の窓口から漢方薬を手にいれた場合には、是非薬局薬剤師に相談してもらいたいと思っています。薬剤師さんはお薬手帳で他科の服用薬やOTC薬(自分で購入した薬)の服用有無を確認するのも重要な任務だからです。また、医師については、新たに漢方薬を処方する際には、お薬手帳を確認したり、薬剤師と連携したりするなどして、服用薬の確認を行ってほしいと思います。複数の医療機関で漢方薬を処方されている場合は、漢方専門医による治療に集約するといったような漢方のポリファーマシーを抑制する対策を考えなければならない時期に来ているのではないかと考えます。